壺屋での個展としては7回目、上田直方襲名後は5回目となる今展。古希を前にして、彼との歩みの中でのひとつの節目になるであろうと捉えて、店主がお願いしたテーマは『◯△▢』。
古くは出光美術館所蔵で知られる禅僧・仙厓義梵の禅画として伝わる「◯△▢」がある。この禅画、一説には仙厓が宇宙を現したのではないかと解されている。ただ謎も多く、墨のにじみから「▢」から書き始め「◯」に至ると推測されるため「▢△◯」という題が適切であるという見解もある。また賛文がないためにその解釈には、密教における三蜜であったり、仏教・道教・儒教の三教合一を表しているなど様々存在する。
一方、やきものの世界に目を移すと、茶碗の形状では「◯」という世界は基本形であり、「▢」になると楽家初代長次郎作として伝わる「ムキ栗」という名碗が思い浮かぶ。遠州時代には後藤三郎衛門が所持し、のちに大坂の豪商・千草屋平瀬家が所蔵していたことで知られている長次郎唯一の四方茶碗である。そして「△」になると茶碗での名碗は目にすることはほぼ無く、桃山時代の備前花入にその名品が存在する程度である。
さて今展にと、上田直方がDM用に仕上げてきた信楽茶碗を拝見してビックリ。ひとつの茶碗に◯△▢が表現されていた。口辺は「ムキ栗」にみられる四方をなし、見込みと茶溜りは見事なまでの円を描き、高台が三角という形状。茶碗全体から受ける印象は奇をてらったものではなく、さすがに六代続く茶陶家を継ぐ直方氏であると思わせるまとまりを見せている。さらに見た目の重厚さとは裏腹にその手取りは軽やかで手にしっくり馴染み、返して高台から見える景色はまさに直方の宇宙観であった。
今回の展覧会では、六代直方の自筆掛物とともに点出し用にも「◯△▢茶碗」を準備してくれている。皆様どうぞ一服味わいにお越しください。そして全体から醸し出す直方宇宙を楽しんでみてください。 |