1962年生

唐津長方皿
 二度の会期の延期を経て、ようやく陽の目を見ることになった。あるお客様から「秋刀魚を丸ごと一匹乗せられる皿はないですかね?」の一言から始まった企画である。
 近年の不漁により高級魚の仲間入りかと、云々されている秋刀魚。確かに丸々と太った秋刀魚を炭火で焼いて食するのは、日本人としての秋の楽しみの一つであった。そして近年の不漁と相前後するかのように、世の中から秋刀魚を丸ごと一匹乗せられるサイズの長方皿も姿を消したように感じていたのは店主だけではなかったようである。
 この話をいただいてから、店主は店主なりに思いを巡らしてみた。サイズ、色調(釉調)、作り手(作家)等々、やはりこれは眞清水蔵六に持ち込む以外にないと心に決めて依頼した次第。もちろん、サイズや釉調は一切お任せで「個展として成立させたい」との一言を添えた。
 西岡小十氏の元で十年間修業を積んできた経歴は伊達ではなかったと感じさせる、店主が思い描いていた以上の作品が仕上がってきた。長さ38センチ幅13センチを超える見事な唐津焼の長方皿。昨今の秋刀魚皿というとせいぜい30センチ、立派な秋刀魚は斜めに置かざるを得ないサイズである。いろいろ調べてみると、これも昨今のキッチンや収納棚事情に始まり、果ては秋刀魚を半分に切って食す習慣にまで行き当たった。
 昭和の時代が限りなく遠く感じる今日この頃。たっぷり脂の乗った秋刀魚をとっておきの唐津の長方皿で食す風景は、昭和の庶民にはどう映るのであろうか。令和の時代に、ひと窯で取れても4点という長方皿を、当初元年秋に予定していた会期を二度延長してでも、そのサイズを頑なに譲らず仕上げてくる作り手の「秋刀魚の季節過ぎちゃいましたね」の一言とその写真に、来年の秋の豊漁を祈らずにはいられない。
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