彼の代名詞ともなっている急須。前載の土瓶とともに彼・村島順が研究に研究を重ねて作り出してきた形である。そこには越前焼特有の強く焼締められた土の景色が現われる。窯の最高到達温度は1300度を優に超えるといい、他の地域の土では耐え切れない高温焼成にもかかわらず、緋色と胡麻の景色が独特の質感を生み出している。また、この高温で焼締めた急須で入れるお茶は、その味において他の地域に見られる急須のそれとは格段の違いを感じさせる。
お茶を入れる道具を中心に陶芸人生を歩んできた村島氏。彼の作り出す急須・土瓶は、他の追随を許さず、作れば売れる代物であった。そんな彼が作り出す、お茶に欠かせない道具ですら今の時代は・・・、人はペットボトルを持ち歩き、卓袱台はなくなり、家で急須に湯を注ぐ光景すら「昭和」といわれる時代になった。あらためて、だからこそ、見直したい。彼の急須には、こころがある。そして何より、やきものが本来内包している豊かさがある。
今年(2010年)の11月に壺屋で初めての個展を予定している。ある意味、陶芸家生命を賭けて彼は挑んでくるであろう。土瓶・急須・宝瓶は言うに及ばず、湯のみ・酒のみ・・・。還暦を超え、さらに新たな一歩を踏み出そうとしている彼の陶芸家人生の第2幕が始まる。本当に大好きな「男」である。 |