欅造盆

 加賀市山中で、父であり人間国宝でもある川北良造氏のもと30年以上轆轤と向き合って来た。その実直で温かい人柄に触れると、彼の作品から滲み出る品格の正体が少しわかったような気がする。
 彼のページを立ち上げるに相応しい作品をと、5月の連休に仕事場を訪ねた。おもむろに出てきたのが今回掲載の欅の盆である。尺6分の少し大きめの柾目。ふちにはさり気なく銀線象嵌が施されている。その美しい木目の欅材から醸し出される何とも表現できない品格の高さに家内とふたり息を呑んだ。思わず見入っていると、気持ちを察したかのように仕事場に居合わせた父・良造氏が近づいて来られ、使われている欅材についてのエピソードを語ってくださった。約40年前、当時日本一の大ケヤキ
といわれたご神木が立っている鹿沼市の神舟神社に、良造氏の師匠でもある人間国宝・氷見晃堂氏と同道した折のことを、まるで昨日のことのように懐かしそうに。 
 師匠から弟子へそして父から子へ、その欅材の一部を大切に受け継ぎ、ようやく盆としての生命を吹き込むに至ったのだという。愚問であろうが、このような永きにわたり生き続けた材に、鉋を入れる時の緊張や心持を浩彦さんに尋ねてみた。答えは「平常心で挽けるようにならなければ、手をつけることのできない材ですね。」と穏やかではあるが凛とした口調で語られた。そしてその眼差しからは、伝統という宿命に真正面から取り組んでいる人間の確かな歩みと自信が読み取れた。
 木の仕事は、やきものとはまた違う生命の琴線に触れる世界である。この項を終えるにあたり、この材についてもうひとこと付け加えておきたい。直径13尺5寸以上にも育った大木であるにも関わらず、まったく動かない(製材などの後に狂わない)そうである。
 「枯木花開劫外春」(人天眼目)。またひとりほんまもんのモノづくりが壺屋にやってきた。
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