1973年生

『黄瀬戸鉢』

 あれから2年が経とうとしている。一昨年、会期直前まで個展に向けてがむしゃらに取り組んでいた黄瀬戸。「各務賢周とゆかりの人々展」と内容を変え、9日間の会期中にご来場いただいた方々からの数々のお言葉が沁みているはずである。
 そしてこの2年間、様々な関係者から展覧会依頼のお声掛けをいただいてきたにもかかわらず、足元を見つめ、自己と向き合い、自身の理想とする黄瀬戸に近づこうと、先延ばしにしてまで精進してきた姿は、現代の陶芸の世界で生きているものには珍しく求道者のそれを彷彿とさせ、かの名手・各務周海氏の若かりし日の姿にもだぶる。
 父・周海氏が理想とした黄瀬戸とは明らかに違う価値観を有する彼が、己の積み上げてきた知識と経験で取り組んできたここ数年の黄瀬戸。今回掲載の黄瀬戸鉢にもその一端をのぞかせる。周海氏が生涯にわたり取り組んでいた油揚手の肌を継承しつつ、もっと明るい雰囲気を醸し出す黄瀬戸を目指そうとしている。そして、造形的にも従来のどら鉢や伝統的な黄瀬戸にはない大らかなひろがりを感じる。まだまだ道半ばかもしれない、ただその取組む姿勢には今の陶芸家が忘れかけている大切なものを持っているように店主には映る。
 今回は、何が何でも個展でと彼には背水の覚悟を促した。前回のリベンジはもとより、この2年間の成長の一端をご覧いただこうと、今年に入り5回目の窯焚きに挑もうとしている暑い夏である。奇しくも彼とは一回り違いの丑年生まれ同士。牛歩の如くでも、己が信じる道を追い求めて欲しいと願う、店主自身の歩みもそうなのだから。

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