『窯出ししました。』突然の連絡に何故かこころが躍らなかった。神戸でもまん延防止措置から緊急事態宣言への報道に、暗闇の淵から更なる深みへと誘われるかのような空気感を肌で感じ始めたちょうどそんな時期であったと記憶する。いつもの播州路を、今振り返ればある種の暗い覚悟で走っていたように思う。そんな重い空気感を一変させるうつわと巖さんの笑顔が、私たちを迎えてくれた。
このコロナ禍がもたらしたその窯焚き風景を、出迎えてくれたお嬢さんといつもの調子で訥々とではあるが、温ったかい空気感で語ってくれた。詳細は、お越しになられたお客様へのお土産として作品と共に大切に持って帰っていただくつもりでいるが、家族でのその窯焚き風景がまさに宿ったと感じるうつわ達だった。
夜明け前の暗いトンネルに突然朝日が射し込んできたような心持ちに、ついうっかり『次の頒布会は30回目の記念展なんですよ。』と口を滑らせてしまった。要らぬプレッシャーをかけることなど毛頭するまいと、黙って準備を進めてきた今展。どんなうつわ達がお出ましになろうと、今までの頒布会よりもう少しオープンにして皆様にご覧いただこうと思っていた。それを感じたかのように上がってきたうつわ達、頒布会までに少しずつご覧いただき、楽しんでお待ちいただけるのではないかと思っている。画像というもののチカラが、ホンモノの質感や肌感を凌駕することは無いが、人の気持ちをどのように動かし、掘り起こしてくれるのか。是非見て触れてみたい、そして使ってみたいと思わせてくれるのか。こんな時だからこそ、店主の背中を押してくれる「うつわ」との出会いに感謝しかない。
音楽家のYOSHIKI氏が日経新聞の本年9月11日文化欄に「歴史を振り返れば、どんな困難な時代でも音楽はあった。芸術家にはどんなことがあっても芸術でそれを表現し、時代を反映する責任がある。」と結んでいる。このコロナ禍が、家族の絆を深いものにし、金重巖工房に新たな光を射した。今展の「うつわ」達は、時代が創り、今後まさしく時代を反映する芸術となろう。
お陰様で、暖簾をあげて24年目を金重巖作品頒布会30回記念展で迎えられます。あらためて皆様に感謝申し上げます。 |