1950年生

「てんもく茶碗」
 「てんもく」と敢えてひらがな表記に強いこだわりを感じる茶碗が上がってきた。2012年以来となる個展がようやく幕を開けようとしている、それも何の因果か「平成」最後の展覧会としてご紹介することとなった。
 ここに至る道程を子細に書立てることの無意味さ、これから先の道程に想像をめぐらすことの儚さ。様々な想いが、そして気持ちが込められた茶碗がお目見えする。碗の見込みにだけではなく胴にもうっすらと現れた虹が、深海を思わせる深みのある青の重なりを受けとめ、この茶碗が今ここに生まれるに至った運命を感じさせてくれる。
 松林廣、古希を迎えついにその扉を開いたようである。昨今の窯変天目ブーム、彼のアプローチはその作り手の誰とも違う研究と方法論で挑んできた。近回りなのか遠回りをしてきたのか、その答えがあろうがなかろうが、彼が万の数を優に超える天目碗を引き、様々な釉薬を試し、窯を焼成し続けてきたのは紛れもない事実である。
 奇しくもこの春には、奈良・滋賀・東京で国宝の曜変天目三碗が同時期にお目見えすると話題になっている。そんな話題とともに「てんもく茶碗」について彼に尋ねると、静かにひとこと『天目茶碗は碗形がすべてですよ。曜変であろうがなかろうが。』とつぶやいた。
 今展の2019年4月開催は、「平成」が終わりを告げるとの大方針以前に決まっていた。そして、彼のもうひとつのライフワークである「青瓷・白瓷」の主要作品とともにみなさまに観ていただこうと企画してきた。
 彼の終着点がどこであろうと、「平成」という時代に松林廣というものづくりがなし得た仕事の全容をご覧いただく。楽しみな個展がまた壺屋にやってくる。
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