信州松本、春の芽吹きを五感で感じられるこの季節にここ数年毎年訪れている。還暦を超えた御年になられてから、さらに精力的にやきものを研究しておられる御仁に会いに。若いころから嫌というほど釉薬の研究に没頭し、爪の間から入った釉薬の原料で金属アレルギーにまでなって到達した境地になお満足などされていない。
壺屋での3回目の個展(2012年)が終わった翌年から『もう一度、金属の元素から勉強し直してみようと思って。』と、信州大学の社会人枠を活用し理学部の門を叩かれた。文科系出身の店主にはチンプンカンプンの元素記号の説明を、講義で写し取ったノート片手に説明してくださる姿は、科学少年のように輝き本当に楽しそうである。
やきものが元来持つ二面性。焼成による化学変化に裏打ちされた釉調と、人の指先によって生み出される形状。綿密な化学式の存在と、経験の上に積み上げられた勘。
その表裏一体の一見パラドックスに見える世界も、突き詰めると修練と積み上げのための時間軸の不足に帰結するように、彼の姿を拝見するにつけ感じる。
『もう少し、待っといて!って皆さんに謝っといて。』と、また今年もあの笑顔で言っておられた。皆様、本当にお待たせしています。松林さんは元気です! |