前原の市街地を抜け南東へ10数分、小高い丘の森の中にひっそりと佇む莫窯。いつもここを訪れるときに、何故か北海道・富良野の景色を思い出す。上原氏が北海道出身だからではない、といって脚本家の倉本聡氏に似ているからという訳でもない。
この夏やっとその答えが見つかったような気がする。きっかけが、今回掲載の白釉鉢である。
本人は、「何の変哲もない白ですよ。」という。粉引でも斑でも白磁でもない白。「木灰に酸化チタンと骨灰を加えただけです。」と続く。釉掛け・焼成に、相当の工夫のあとが窺える。そして、「柔らかさがあってモダンな感じがして汚れにくい和洋に使える白いうつわを。」と締めくくった。
そんな白釉鉢から受ける印象は、北の国特有の『粉雪』である。最近、彼の「伊羅保」の皿も店に並んでいる。こちらから受ける印象は、『麦秋』である。
自らの心の原風景を素直に宿らせ、なおかつ機能的でモダンに仕上げられているうつわたちは、大地の恵みを素直に受け止めてくれる。「機能美・用の美」使い古された言葉である。彼の作り出すうつわには、これらにプラス「心の美」が宿っているような気がする。
「やっぱり、白にはこだわり続けていきます。」帰り際に言った。九州にある富良野に別れを告げた夕刻、来夏(2002年7月)の彼の個展は、『上原治夫・白の世界』展と決めた。 |