丹波刷毛目平茶碗
(高さ5.8×径15.5×高台径5.4)

 「刷毛目の圭泉」会心の平茶碗である。田部美術館主催の「茶の湯の造形展」で5年連続、刷毛目茶碗で入選を果している彼の作り出す刷毛目は、実に大胆かつ繊細である。朝鮮李朝陶器や御本・伊羅保・茂山に見られる刷毛目を深く研究し、若い頃から培った書の心得をさりげなく反映させている。
 今回掲載の平茶碗の刷毛目は、非常に上品で初夏のほそまい雲(能島家の兵書記載の「刷毛にてひきたる如く淡く白く天に横たわる雲」[幸田露伴著『雲のいろいろ』より])を想像させ、朝茶に取り合わせたい作品である。
 釉色は、丹波の鉄分の多い山土に灰釉系の水釉の青みが上手く溶け込み、柿の蔕茶碗の名碗「青柿」を連想させる雰囲気である。また茶巾摺に見られる釉の薄くかかった部分が火間のように写り、刷毛目との対比が心地よいリズムと景色を生んでいる。造りは全体に薄く、口には切回しが見られゆったりと自然に仕上がっている。高台は竹の節で、高台内に1箇所小さく火間があり土味を見ることが出来る。
 彼の作り出す茶碗は、素朴な味わいの中に凛とした一面が必ず顔を出している。これは、長年の研究と研鑚で培った技術と孤高・清貧の中で培った心が、ひとつになってこそ生まれるものではないかと、彼を見ていると感じるのである。


丹波大壺
(高さ540×径440×口径160)

 通い慣れた、約1時間のドライブコース。今日もあの笑顔に出会えると思うと心が弾む。下立杭の閑静な一人家。残暑まだ厳しい8月下旬の朝。相も変わらず開けっ放しの作陶場から、いつものように声をかける。いっこうに返事が返ってこない。
 座敷には、壮観という言葉がピッタリと当てはまる10数点の丹波の大壺。返事がないのをいいことに、大壺の品定め。約30分の一人品評会で、決めました、この大壺に。ふと気がつくと2階から聞こえてくる高鼾。携帯電話でプルプル・・・。慌てて電話に出る2階の物音。ドタドタと階段を駆け下りてきて一言「今朝4時まで窯焚いてた」。
 識朦朧をいいことに、たたみかけるように11月の作品展の話から作品の選定に持ち込み、「月末からの個展済んでから・・・」の寝起きの声も、得意の聞こえない振りでかわし、「壺一点でいいんです」の一言で商談成立。
 「あれでエエ?」と言う指の先には、あの一人品評会の大壺。いつもの笑顔で、「どうせあの壺やろ」。意識朦朧ではなかったのです。しっかりと私が言った「自選展」の言葉をインプットして、応えてくれたのです。
 帰り際、「中央市場で買って、自分で作った鯵の開きの一塩やけど、持って帰る?わし、好物やねん」とビニール袋に4つ入れてくれた。その日我が家の夕食で、久しぶりに心の底から満腹感を味わったのは言うまでもない。



 現在の丹波焼(立杭焼)における、異色の存在である北村圭泉の実力と茶碗に対する造詣の深さがみごとに表現された秀作である。
 現在の日本陶芸界において、「柿の蔕茶碗」を真正面から見つめ、ここまで真剣に取り組んでいる陶芸家は、私の知る限り彼をおいて他にいない。
 民芸風の作品が主流の現在の丹波にあって、茶陶一辺倒の北村は、「刷毛目の圭泉」と呼ばれているように、大胆な筆遣いによる刷毛目茶碗はみごとで、この表現をもって一家をなしてもおかしくない存在である。また、過去には三田青磁復興の第一人者として、中国龍泉窯にもその名を知られ、独自の青磁技法は他の追随を許さない。このように、技術・表現力・感性、どれをとっても一流であるにもかかわらず、中央において無名に近い存在であるのは、真摯な作陶姿勢からくる愚直なまでのこだわりにほかならない。
 今回掲載の「柿の蔕茶碗」であるが、釉色は、朽葉色の渋い色合い(柿の蔕色から茶碗名になったという説)で、侘茶の茶碗として申し分のない水釉の配合である。
 また、口造は約束の一つである樋口(トユクチ)で、作為的に口辺を揃えた樋口では表現できないみごとなものである。
 腰の張りは穏やかで、見込み茶溜りとも申し分なく広くて美しい仕上がりとなっている。目跡はなく、最上部の逸品であることがかえって茶人のこころをくすぐる。
 高台は、竹の節がみられ、高台脇・高台内とも縮緬じわが鮮明で、この作家の力強さと巧みさがみごとに表現され、この茶碗のみどころの一つとなっている。
 姿(茶碗を伏せて上から見た形が、御所柿に似ている説)は、柿の蔕茶碗の双璧と称される「毘沙門堂」「大津」に例えると、大津に近く、使い込まれた姿を想像すると、まさに名品とならべられても遜色のない作品となるであろう。
 土味は、掲載写真では表現しきれていないが、丹波の山々を駆け巡って独自のものを手に入れ、使っているだけのことはあると唸らされる。また、正面に三日月形に二箇所火間があり、まさに名を付けたくなる逸品である。
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