「刷毛目の圭泉」会心の平茶碗である。田部美術館主催の「茶の湯の造形展」で5年連続、刷毛目茶碗で入選を果している彼の作り出す刷毛目は、実に大胆かつ繊細である。朝鮮李朝陶器や御本・伊羅保・茂山に見られる刷毛目を深く研究し、若い頃から培った書の心得をさりげなく反映させている。
今回掲載の平茶碗の刷毛目は、非常に上品で初夏のほそまい雲(能島家の兵書記載の「刷毛にてひきたる如く淡く白く天に横たわる雲」[幸田露伴著『雲のいろいろ』より])を想像させ、朝茶に取り合わせたい作品である。
釉色は、丹波の鉄分の多い山土に灰釉系の水釉の青みが上手く溶け込み、柿の蔕茶碗の名碗「青柿」を連想させる雰囲気である。また茶巾摺に見られる釉の薄くかかった部分が火間のように写り、刷毛目との対比が心地よいリズムと景色を生んでいる。造りは全体に薄く、口には切回しが見られゆったりと自然に仕上がっている。高台は竹の節で、高台内に1箇所小さく火間があり土味を見ることが出来る。
彼の作り出す茶碗は、素朴な味わいの中に凛とした一面が必ず顔を出している。これは、長年の研究と研鑚で培った技術と孤高・清貧の中で培った心が、ひとつになってこそ生まれるものではないかと、彼を見ていると感じるのである。 |