赤絵瓶 時の雫
(径12.2×高44.5)

 彼女の作品と付き合いはじめて10年以上が経つ。過去に何度も、壺屋のホームページに載せるべく原稿を書いてみた。何故か、なかなか最終稿まで書き上げられず掲載を見送ってきた。そして、今回の『時の雫』で、壺屋初の女性陶芸家として仲間入りである。
 京都で造形を学び、信楽や九谷で研究を重ね、オブジェ陶から食器まで赤絵を中心に発表し続けて約20年、最近ようやく渡部味和子という陶芸家の本性が見えてきた。
 過去、彼女のつくりだすモノをずっと見続けてきた。初期の稚拙な、けれどもいっさい手を抜かない赤絵作品からは想像できないくらいの技術と感性を近年は身に付け、これでもかというほどに描き込んだ作品には、一種の緊張感と完成度を感じている。その集大成的な作品が先日の「京都工芸ビエンナーレ2010」で発表された、今回掲載の『時の雫』である。だが、それだけのことで今回掲載に至ったのではない。
 先日、京都のある画廊での彼女のオブジェ陶の展覧会を観に行った。明らかに変り始めた彼女の作品がそこにいた。緊張感の塊のような生き方をしてきた彼女の内面に、何らかの変化が生じたようである。それは、人が年輪を刻む作業の中で生まれるこころの成長であろうか、はたまた日々の弛まぬ努力の中から生まれた技術的境地であろうか。その変化の帰結は、彼女の今後発表する作品で見えてくるであろう。だからこそ、今回の『時の雫』はどうしても掲載したいと思わせる分水嶺に感じた。
 陶芸の世界で女性が生きるということは、男性のそれとは肉体的にも精神的にも何倍も何十倍の骨の折れる作業である。10年以上彼女の生き方を見続けてきて思うことは、人として本当にまっすぐで、心から応援したくなる人物であるということ。そして、その紡ぎだす作品は、その時の自分をすべてぶつけ自分の心の変化に素直に向き合っているということ。そんな彼女の笑顔が、最近はすごく自然でやわらかい。
 ようやく彼女のこころの雫が、10数年の歳月を経て壺屋にやってきた。
  作家一覧にもどる もどる
※ 当サイトに掲載の写真・テキスト等の無断転載を禁じます。