1968年生
銚子
 日本での錫器の歴史を紐解くと、1300年程前の正倉院の宝物まで遡る。神器として用いたと思われる壺や瓶の存在が宝物殿で確認されている。その後、金銀と同様に貴重な金属器としての歴史は、その神秘的な耀きと水を浄化するといわれる不純物を吸収する性質とも相まって、主に祭器としての役割を担って伝わってきたようである。近世以降は、薩摩藩をはじめ日本各地で錫鉱山が発見されるに至り、錫鉱石流通の中心地であった関西に錫師と呼ばれる技能集団が生まれ、本格的な発展期をむかえたという。
 歴史の営みが、それぞれのうつわの形状や名称(呼び方)、あるいは美意識や用途に大きく寄与し発展させてきたことは、陶磁器の世界でもつくづく感じてきた。錫の展覧会を開催するにあたり、改めて錫器の「地炉利(ちろり)」や「湯婆(たんぽ)」について文献を調べていると、面白いことに気付いた。地炉利あるいは湯婆と呼ばれる、元来は直火で温める道具の変遷とともに、神器としての金属の瓶からの流れが「銚子」という金属製の酒器へと昇華していったといわれる歴史。
 今日では、「銚子と徳利」についてその名称を明確に使い分けている実例を、ほとんど見かけなくなっている。が、その歴史的背景をみると、うつわの形状や素材あるいは用途から明確な違いが読み取れる。今回の角居という作り手の「銚子」を眺めていると、つくづく徳利とは異なる伝統美を感じずにはおれない。彼が意識するしないにかかわらず、錫という金属が醸し出す耀きと、瓶の時代から連綿と続く美しい形状の発展的連鎖。
 今回の展覧にと、茶にまつわる彼の美意識を纏ったうつわと共に、伝統的な中に独特の現代的なアレンジを施し精魂込めて作り上げた、地炉利や銚子をはじめタンブラーやぐいのみなど魅力的な酒器類が、日の本のこの季節に一服の涼感を運んできてくれている。
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