1968年生




 待ちに待ったテーマが陽の目を見ることになった。
 じっくり温めてきた企画というよりも、彼の技術の成長を待ち続けたと言ったほうがいいかもわからない。壺屋での初個展から12年、正確には付き合い始めた15年前に遡る。
 25年以上前、壺屋開廊当初京都にある老舗刃物・金物専門店にオリジナルの珈琲ポットを制作してもらっていた。ドイツで19世紀末開窯した食器メーカーの磁器製コーヒーポットを持ち込みその写しから依頼を始め、数年の歳月と試作品からようやく完成に至った銅製ポットであった。そんな自慢のオリジナルの逸品も、その老舗最後の名人と呼ばれる職人さんあっての代物だったようで、その職人さんが亡くなると販売中止を余儀なくされた。
 15年前、錫という金属と、まさしく格闘していると表現したくなるような取り組みをしていた角居というものづくりに出会った当初、ギャラリー内で使用し1点だけ残っていた珈琲ポットを見せてみた「これ作って欲しいんやけど」と。彼の創作意欲に火をつけたのは確かだったが、暫くしての返事は「今の僕の技術ではこの口は作れません」との一言だった。
 初個展を経て、10年以上の歳月が流れた第4回展が終わり、さあ次のテーマをと思案を巡らせていたある日「ようやく技術的に可能になりました!」と突然の連絡。角居康宏というものづくり、やはり本物である。
 人が人と交わりひとつのものを生み出すことは、大袈裟ではなく人生を賭した壮大な物語である。そしてそこには、信頼と良心が横たわって初めて完成されるものであると改めて噛み締めている。
 今展にあたり、店主にしては珍しく、作り手に「今回のお題は?」と問うてみた。時をおいて、店主が考えていたテーマである〈注ぐ〉というキーワードとは全く違った、「宿題」という答えが次の一文とともに返ってきた。愛すべき作り手である。


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